復活! C11190号機
川 根 路 に 響 け 六 機 の 汽 笛


 1974年、熊本で用途廃止となったC11190号機。当初は解体される予定だった同機はお召し列車牽引と言う大役を務めた事のある名機でもあった。
このカマが解体されるのを惜しみ、1978年に熊本県八代市在住の小沢年満氏個人が買取り20年以上にわたって保存し続けてきた。しかし、個人で保存するのにも限界があり、公共機関などに保存を訴えてこられたそうだが実現に至らなかった。
 その頃、既存の機関車の老朽化などで新たなSL導入を模索していた大井川鐡道はこの事実を聞きつけ現地調査を行い、保存状態の良かった同機を譲り受ける事となった。

 20数年住み慣れた熊本の地を離れ平成13年6月末、御前崎港に陸揚げされた同機は動態復活に向けての一歩を歩み始めた。しかし、ここに大きな問題が立ちはだかる。改修・整備に約5,000万円の膨大な費用が掛かる事。JRや大手私鉄などの様に資金に余裕のある会社であればある程度の目途はつけられるだろう、しかし大井川鐡道の様な地方中小私鉄にそれだけの資金を捻出する余裕はない。
 同年8月には「C11190号機復活プロジェクト」が立ち上げられ、この膨大な費用の一部を募金で賄おうとする「C11190号機復活支援募金」がスタートした。1口5,000円の募金は平成15年5月末まで続けられ、1,300名余り・約1,600万円ほどの募金が集まった。保存団体などが行う募金ではあるだろうが、一企業が所有するものにこれだけの募金が集まるのは異例の事だろう。それだけ大井川鐡道がSL動態保存に対して認知されている証でもあるだろう。

 この募金を含めた資金に大井川鐡道技術陣の研ぎ澄まされ脈々と受け継がれた技術力が加わり2年半の歳月をかけ平成15年6月3日、同機の火入れ式が執り行われた。20数年のブランクをものともせず、C11190号機は川根路で息吹を吹き返した!そして6月から7月にかけて試運転を繰り返し、7月17・18日の両日、この復活支援会員を対象にした試乗会、そして19日には営業初運転と歩み、ついにC11190号機は復活を成し遂げた。
 この試乗会と営業初運転の日に大井川へ出かけ両日の様子を追ってみた。近い将来、大井川に6両のSLの汽笛が響き渡るのも夢ではないだろう。なお、搬入から試運転までの様子を「井川線フォトギャラリー」のコリドラスさんがまとめられているので、こちらも合わせてご覧下さい。


 平成15年7月18日、復活支援会員対象の試乗会列車に乗車するために大井川へ。いつもの事ながら前夜のうちに大井川入りする。
久々に神尾駅の朝を狙いたく車を神尾に向ける。今回は高校時代の同期との大井川入り、彼とは高校時代に大井川へ来ているがもう12年ほど前の事、記憶の片隅に残っていないであろう。17日23時過ぎに金谷へ入りコンビニで食料などを調達し神尾へ。部落からも離れたこの駅は終電後なら静かであろうと思ったが...トンネル壁面へのコンクリート吹付け工事の仮設プラントが出来ており深夜まで煌々と灯りが灯され作業が続いていた。邪魔にならないところに車を止め少々アルコールを煽り1時過ぎに就寝。

 早朝6時過ぎ、目覚ましに起こされると(実はその前に目覚めた同行者が散策中に電話をよこして起こされ二度寝した)雲の切れ目から陽がさしていた。神尾のホームから眺める大井川は霧に包まれた山々と朝陽に輝く川面が水墨画の様な美しさを醸し出していた。
 
 神尾の上り始発は6:33、この時間に列車を利用する人がいるかどうか...と思ったら既に駅に来ているお婆さんがいて、駅備え付けの掃除道具で駅舎付近とホームを掃除している。無人駅の神尾駅、毎日かどうか分からないがこの始発列車を利用するお婆さんが掃除をしているのではないだろうか。綺麗に掃除された駅に無人駅の荒れ果てた姿はない。鉄道と沿線の方々のつながりの深さを感じられる。
 7時過ぎの2番列車は乗降なしで発車。数年前なら部活の学生が乗っていった時間帯に神尾からの乗車はなし。この上り2番列車と五和で交換してくる下り2番列車も寂しいかな乗降なし...。やはり神尾の部落も少子化が進んでいるのだろうか。

 下り2番列車が発車した頃、腰も動きもシャキッとしたお婆さんがやってきた。「おはようございます!」挨拶を交わすとそのまま世間話になだれ込む。何でも今年で83歳になると言う。
「まだ83だよ」と言うお婆さんの「まだ」というその一言に同行者がビックリ。病院へ行くと言うが全然悪いところがないのでは?と思うくらいに元気なお婆さんと一人の学生を乗せて上り3番列車が神尾をあとにした。やはり利用者が減っている感を受けた。

 

 この後、神尾をあとにして北上し福用へ向かう。福用7:57の上り4番列車は五和保育園の通園列車でもある。保育園児の頃から電車に一人で乗る事を学び乗車マナーも体得する事が出来る。たった二駅間ではあるが、子供たちだけで電車を利用することになる。幼稚園や保育園の園舎まで送迎する保護者が多くなった昨今でこういった光景が見られるのも稀ではあるが、子供たちが自立し自分で物事を考えられる環境はこういったところからも学べるのではないだろうか。

列車が到着するまで、ひと時の賑やかさがホームを包む。子供たちの笑顔と歓声、いつも活気があってよいものです。

 親と離れると泣きじゃくる園児の姿はそこにはなく、電車が到着すると自ら乗車してゆく。母親達はその姿を見送り、運転士はその様子を見つめ安全に乗車したところでドア扱いをする。ドアが閉まると車内からは大きく手を振る子供たち、それに応える様に母親達も手を振り見送る。

 これがこちらでは当たり前の通園風景なのである。友達と一緒に同じ電車で通園する。昔は近所の子と一緒に歩いて通園したのが当たり前であったのがいつの間にか車で送り迎えが当たり前になっている昨今、我が子可愛いやは分かるがこの通園時間に得るものの大きさを見直してほしいと思える光景でもある。きっとこの子達の感性や人間性は都会の現代っ子と大きく変わるだろう。

 この後、前日から大井川入りしている草凪みかんさん・tok-pさん・コリドラスさん・ABEさん・HARAちゃんが宿泊している川根温泉のコテージへ移動する。8時半前に着いてみると概ね起きているけれど...お寝坊大王のHARAちゃんはまだベットの中。どうしたらそんなに寝られるのか??不思議ですね。
揺すっても消火器抱かせても起きないんだから...(笑)

 今夜のお宿は家山の杉田屋、車をどこへ移動するかを決め、翌日の移動などを考慮して新金谷へ直接向かう事に。今日はC11190試乗会、いわば復活のお披露目の様なもの、ならば祝い酒をしなければ...途中でヤオハンに立ち寄り仕入れをして新金谷へ。着くと既にカメラを抱えた人の姿が見受けられる。そして良く見る面々も...平日なのに仕事はどうしたのだろう??と疑いたくなるが...。お互い様??しかし本当に多くの人が集まっている。

 
新金谷駅の受付
 まだ1時間強の待ち時間があるが新金谷駅にはカメラを抱えた多数の人を筆頭に親子連れ・老夫婦など試乗会参加と思われる方々が徐々に集まってくる。

 この日は3両編成に約80名のお客さんが乗車するという。かなり余裕がありノンビリとそしてじっくりと試乗を楽しむ事が出来そうだ。
 駅前に設けられた試乗会受付で受付を済ませ改札が開くのを待つ。構内には復活の様子をずっと追っているSBSテレビの姿も見られる。
SBSテレビのスタッフ

 10:30発の千頭行き下り列車の発車を待って試乗列車の転線が始まり準備が整うと改札が開く。1番線に入線したC11190号機には「試乗会」のHMが取り付けられ、ピカピカの車体で出迎える。デフに大井川鐡道の社紋が付き、全体にステンレスの帯が巻かれたその姿は現役時代の「お召し」仕様にも見える。写真を撮ろうとすると自分の姿が車体に映るほどピカピカである。よくぞここまで蘇らせたものだ。

試乗会のHMをつけたC11190
機関士・乗務員共に満面の笑み
デフの社紋、初めてついたカマでは?
 
 10:43、定刻に新金谷を発車したC11190号機牽引の試乗会列車。一番後ろの1号車に乗り込む。木造ニス塗りの客車は昔懐かしい本当の汽車列車で使われた車両。油の染み込んだ木床・小刻みに開放出来る窓枠・ブルーのモケットに網で造られた網棚。車内に入ると一瞬にして時代が遡る。
 冷房なんて必要ない、大きく窓を開け自然の風を浴びながら時折香る石炭の匂いに汽笛の音。力強く走り出したC11190は期待以上の走りを披露してくれている。快調な滑り出しに車内は祝宴モード。川風が気持ちよい車窓を眺めながら呑むビールは格別!
さぁ、窓を大きくあけて...
祝宴!真昼間から勢いよく!
小沢夫妻も試乗、SBSが取材を続ける

 
 五和を過ぎ大井川が寄り添うと徐々に勾配を駆け上がる。しかし余裕の走りを見せるC11190。2号車にはこのC11190の前所有者小沢年満氏とご婦人も試乗されている。その様子をSBSのカメラが追っている。車内の大半がカメラを抱えた鉄道ファンらしき姿、そして家族連れの姿が目につく。それぞれが汽車旅を堪能している様子が伺える。もちろん我々もであるが...

汽車旅っていいよね
お父さんは写真撮りに行って...
小沢氏とご婦人に話しを聞く人の姿も


 鉄道ファンが犇めき合った試乗会の雰囲気はまったくなく、むしろ汽車旅を満喫するかのような乗客の姿が大半。緑多き沿線の光景を眺めたり缶ビールを煽る姿が見られる。

 時折大きく煙が立ち上がり、有名ポイント付近には撮影するファンの姿が散見されるが、それほど大勢ではない様子。写真を撮り終えると乗客が手を振るのに応える。
沿線にファンの姿


 
やがて家山に到着すると暫しの撮影タイム。ほとんどの乗客がホームに降りてC11190を取り囲む。我が子とSLをビデオに撮るお父さん・機関士に色々と質問するファンなど様々。試乗会のHMを外しての撮影はまさに現役のSLそのもの。本当によくここまで復元させたものだ。

車体に巻かれたステン帯が凛々しいC11190
僕ねぇ乗るのずっと楽しみにしてたんだよ

 

覗きはご遠慮くださ〜い
機関室を覗き込む面々
記念撮影する姿も


 11:32、再び千頭へ向けて発車する。約20分の撮影タイムはアッという間に過ぎてしまった。これから千頭までますます勾配がきつくなるがC11190はどんな走りを見せてくれるか。車内に戻り2本目の栓を開ける。抜里・笹間渡と通過しいよいよ地名坂。20‰の連続勾配はSLにとって難所。その難所をグイグイと登っている!やっとの思いで登りきるカマがほとんどの大井川にあってこれだけ力強く登るカマは初めてだ。牽かれている!という感覚が伝わる。いやはや凄いカマを復活させてしまったものだ。


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